八帖歩道橋

小学生の算数の試験で出題される「一辺の長さが1の正方形がある。各頂点から半径1の円弧を描いたときにできる円弧で囲まれた図形の面積を求めよ。答に小数がある場合は、小数点第3位を四捨五入せよ。」の図形みたいな歩道橋が、国道1号と国道248号の交差点に架けられている。まんまるではないが、四分割した楕円を組み合わせた形状なので、円形歩道橋コレクションに加える。
架橋前は、交差点の東側に国道1号を跨ぐだけの横断歩道橋があり、他の3道路は横断歩道が設けられていた。

愛知県内でも有数の交通集中交差点らしく、愛知国道事務所による専用サイトがあった。

※ 2016年10月時点で専用サイトが存在していたが、その後廃止された。いわゆるサイバー廃道か?
参考:国会図書館WARPに保存されている 愛知国道事務所による八帖交差点サイト

それにしても、なぜこのような形状にしたのか。

「橋梁」第25巻第9号(橋梁編纂委員会)に掲載された「八帖歩道橋の設計・施工」によれば、この交差点前後の国道1号は、道路幅員を40mに拡幅するとともに両側に環境施設帯を設置する沿道環境整備事業のモデル区間として、1979(昭和54)年度から建設省愛知国道工事事務所が事業に着手したとのこと。岡崎市の中心に近い場所であるが故の諸々の事情を踏まえて地域の象徴的モニュメントとして相応し、従来のスタイルにない斬新なデザインを施すことにしたそうだ。
そして、設計の基本的概念を

  1. 歩道橋があると、思わず渡りたくなり、渡ると潤いと安らぎがあり、変化に富んだ面白さが感じられる歩道橋
  2. 岡崎市の、文化観光都市としての、歴史的な雰囲気とイメージを持ち、落ち着きと風格があり、また全体として、バランスのとれた造形的に優れた歩道橋
とし、その表現方法として
  • 平面的に工夫を施し、特に動線としての配慮を重視すると共に、回遊を可能とした面白い形状とする
  • 距離感覚を和らげるため、できるかぎり平面的な曲線を取り入れる(曲線の曲率を変化させた楕円)
  • 道路部の四隅附近に、小空間を設け、休息場所としての有効な利用
  • 「龍城通り」の名にちなみ、龍を題材に平面形状にてイメージ化
  • 高欄は、落ち着いた型とし、要所には、徳川家にゆかりのある歴史的なイメージを作る
が設定された。
※龍城通り(たつきどおり):岡崎城の別名である龍城(りゅうじょう)にちなみ、およそ岡崎市役所から矢作川までの国道1号(東海道)を指す。

ふーん、算数の難問が龍のイメージか。
かなり高尚だな。

しかし、直線的に✕または□の形状で交差点を結ぶと長い距離を歩く印象を持つところ、円弧にすることによって近いと錯覚するのは事実と言っていいだろう。


(2021年3月6日追記)
昨年1月に7743さんからいただいたコメント「国道上り線の右折レーンを増やすために南側の歩道橋ピアを車線一本分移動させ、工事中、道路も歩道橋も活線で維持する」の経過調査と痕跡の現場確認を行ったので、レポートする。もちろん、活線(原則通行止めにすることなく施工する)の様子は痕跡があるはずはなく、現場確認と言っても現場に立って当時の風景を妄想するしかないのだが。

八帖交差点渋滞対策に関する経緯

2008(平成20)年3月、岡崎市八帖交差点渋滞対策懇談会(座長:愛知産業大学大学院 小川英明教授、他地域総代・岡崎警察署交通課長・三菱自動車・岡崎市副市長等により委員構成)が取りまとめた提言の骨子は次のとおり。

  1. 早期に八帖交差点の渋滞対策を行う必要があります。
  2. 改善策は、八帖歩道橋を撤去した国道248号のオーバーパス案・国道1号のオーバーパス案を推奨します。
  3. 今後も地域住民・道路利用者の意見に十分配慮し、効率的・効果的な対策立案に努めること。

だが、根強い反対意見のためか財源問題か不明だが立体交差化は実現せず、国道1号上り線の右折車線を2車線化すること・国道248号の信号現示変更(青信号時間の延長)の2点が対策となった。

八帖交差点改良工事概要
期間:2012(平成24)年3月~2013(平成25)年7月
   八帖歩道橋の支柱移設工事は2012(平成24)年7月頃
供用開始:平成25年7月5日(金)24時
概要:国道1号上り線 豊橋方面右折車線を1車線から2車線へ
   歩道橋の仮設昇降階段を設置、支柱を移設(新規)
設計:オリエンタルコンサルタンツ

なお、国道248号(八帖交差点南北方向)の信号現示変更は2013(平成25)年9月6日に実施された。

構造3径間連続鋼床版箱桁橋
路線国道1号/国道248号
所在地愛知県岡崎市中岡崎町/八帖北町
完成時期1989(平成元)年3月架設
実走行日2016-03-20
全景写真
(2016年3月20日撮影)交差点の斜向いに行くなら、どちらを通ってもよい。
これが龍のイメージか。煤で汚れた桁が残念だ。
国道1号矢作川方面を眺める。なかなかの渋滞。
国道248号岡崎駅方面を眺める。こちらの混雑も酷い。
おっと、岡崎市に集中して棲息していると噂される「こっちだヨウ平」発見。基本的には全国に分布しているはずだが、絶対数は減少しており、レッドデータブック入りは近い。
1989(平成元)年3月架設。

(2020年11月22日撮影) 八帖歩道橋上の北西昇降階段を眺める。円弧の延長上に昇降階段がある。
南西昇降階段を眺める。円弧の延長上に昇降階段が・・・ない。確かにずれてる!
南西昇降階段取付部を見上げる。なるほど、切って付けてるわ。
南東昇降階段取付部も同じく2mほどずれている。
支柱設置・仮設階段設置・既存階段切断等の工程をどういう順序で・何を並行させて施工したのか。当然ながら工程表は入手できなかったが、部外者だからこそWBS(Work Breakdown Structure)を想像するのは楽しい。