国道299号と国道462号が合流する付近、神流川の向こう側にそびえる岩山の山中にループトンネルがある。
ツーリングライダーなら「瀬林の漣痕 恐竜の足跡」或いは「白水の滝」の付近、オフロードライダーなら林道二子山線(神流町)から見える石灰石鉱山と言えばわかるだろうか。
目次
調査のきっかけ
存在を知ったのは2005(平成17)年頃か。
当時はまだ地図ソフトをPCにインストールする時代だったが、ツーリングルートを調べるためにぼんやり地図ソフトをグリグリしていたら、奇妙な線形の道路が目に入った。
類稀なる二連ループか!と心が踊ったものの、秩父太平洋セメントの敷地内であることがすぐにわかり、どう考えても一般人が走行できるはずがなく、仮に走行できるとしてもトンネル内なのでループしている様子はわからずGPSトラックログも残せないので、すぐに興味が失せた。
時は過ぎて2022年。
せめてトンネル開通時期だけでも知っておこうと調べ始めた。まずは復習すべく地理院地図とGoogle MapsとYahoo!地図を開く。(この3つは我が机上調査の必須アイテムである)
地理院地図の空中写真は超絶古いものしかない。Yahoo!地図は林道二子山線が完抜していないので少々古そう。Google Mapsが現在の状態に近そうだ。
Google Mapsでズームアップしてみたところマーカーの位置がトンネル出口のようだが、地理院地図やYahoo!地図のトンネル出口位置と違うんじゃない?と気付いた。
これがとんでもない(当社比)事実を知るきっかけだった。
野坂レポート
秩父セメント野坂社長(当時)が日本鉱業会(現在の資源・素材学会)の会誌に発表した「世界最長トンネルベルトコンベヤ輸送方式を基幹とした叶山石灰石鉱山の開発」(日本鉱業会誌 103巻1193号 – 1987年7月)に、ここ叶山鉱業所の建設過程が報告されていることを知り、読み込んでみた。この論文を以下「野坂レポート」と呼ぶ。
野坂レポートは、採掘した石灰石をベルトコンベアで搬送することを説明するために、叶山の地質や鉱業所敷地内の道路配置を挿図している。これぞ知りたかった情報のひとつだ。
地理院地図と現地のトンネル扁額で「白水隧道」だと思い込んでいたが、「白水隧道」と「叶山隧道」が接続していて、ループしているのは「叶山隧道」だ。
そして、なんだこれ?二連ループじゃなくて三連ループなのか!?
ループ位置を詳細に特定すべく、この図を地理院地図に重ねてみよう。
平面図の検証
野坂レポートの叶山鉱山平面図は上が南なので、回転させたうえで縮尺を調整して当てはめてみたところ…
(マウスオーバーまたはタッチで画像切り替え)トンネル出口の位置がまるで合わない。
さらに、Google Mapsの空中写真と比較すると、出口の位置がもっと合わない。Google Maps空中写真のトンネル出口は②の近くだ。
どゆこと!?
断面図の検証
叶山付近は何度か通過しているので、露天採掘していることは知っていた。というか、石灰石は基本的に露天採掘だ。
露天採掘すると、山の形が変わってゆく。
現在、いったいどれぐらい採掘したのか?
地理院地図で標高を確認すると・・・880mぐらいだ。
叶山の標高は元々は1106mだった。
はっ!
地理院地図で断面図を作ってみよう。
野坂レポートの断面図の位置は正確にはわからないので、それっぽい場所を適当に指定して生成&ダウンロードして、断面図に重ねてみる。(マウスオーバーまたはタッチで画像切り替え)なるほど!
採掘が進めば山は低くなり、トンネルは露出してなくなってしまうのか!
考察と現状の推定
野坂レポートの平面図と断面図に、採掘してなくなった部分を重ねてみる。
(マウスオーバーまたはタッチで画像切り替え)こりゃ、ループ2つ分がなくなってるな…
ここまでの情報を元に考察すると、
- ループトンネルがあるのは叶山鉱山(秩父太平洋セメント 叶山鉱業所)の叶山隧道で、操業開始時点では三連ループだった
- 1984(昭和59)年6月に操業開始なので、その前年頃までにトンネルが開通していたとみてよさそう
- 採掘が進むにつれて山は低くなりトンネルも短くなっていく
- 叶山隧道の全長は完成当初2482mだったが現在1280m以下になっており、ループは下図に示すようにおそらく1回転半
- ここまでのスピードを勘案すると2030~2035年にループが消滅するかも?
のの字情報の整理
路線 | 秩父太平洋セメント 叶山鉱業所 構内道路 |
---|---|
所在地 | 群馬県多野郡神流町神ケ原 |
回転度 | 当初:1170度(3¼回転) 現在:540度(1½回転) |
完成時期 | 1981(昭和56)年~1983(昭和58)年頃 |
実走行日 | 関係者以外立入禁止 |
現調(外から見るだけ)
関係者以外立入禁止なので現調しようがないが、雰囲気だけでも感じたいので訪問してみた。
秩父太平洋セメント 叶山鉱業所
秩父太平洋セメント 叶山鉱業所(現場近くのオフィス)は国道462号沿いにあり、叶山を一望できる。
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坑口へ向かう途中、宮地グラウンド駐車場から叶山を眺める。石灰石の山肌が連なる。写真左上隅に見えているのは何だ?
ショベルカーのアームだ。仁王像のつもりかな?(たぶん作業終了の合図)
工事期間は1981(昭和56)年2月25日から2030(平成42)年12月31日まで。
開始日は本当に開発が始まった日だろう。終了日は暫定で、状況次第で延長されるはず。平成7年に35年分も一気に更新したのか。
石灰石採掘現場につながる白水隧道坑口。横にある白水の滝が「しらみずのたき」なので、読みは「しらみずずいどう」だと思う。日曜なのでシャッターが閉まっている。構内作業の60トンダンプを搬出入するときは、ここを自走するのかな?それとも現地ノックダウン?
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古そうに見える坑口だが、まだ40年しか経っていないはず。この奥にループがあると言えば、当然白水隧道のループだと思うでしょ。中で分岐して、ループしているのは叶山隧道なのです。
林道二子山線・叶山空撮
みんな大好き二子山林道は国道299号に接続している。単管バリで閉鎖されているが、冬季閉鎖か復旧工事閉鎖かわからないものの本日の目的地までは難なく通行できるはず。きっと。たぶん。
ちなみに、Twitterで二子山線を検索するとナノレカワさんとみやさんがトップに出てくる。ふたりともネット上でよく遊んでくださる。
国道299号分岐から700m地点。ソフトバンクはダメだって。
国道299号分岐から2.4km地点。この先に進むなという強い意志を感じる単管バリだったので、ここから撮影。標高995m。
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叶山鉱山空撮。もっと近づけば山頂側坑口を撮影できそうだが、12月の朝8時、気温0.3℃。フライト中にバッテリー低温警告と強風警告が同時に出て、やむなく帰還させた。
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おお、宮地グラウンド駐車場から見えたショベルカーが見えるぞ。
周辺の見どころ
「瀬林の漣痕 恐竜の足跡」ぶっちゃけ、どれが足跡がよくわからん。
瀬林の漣痕のすぐ前にある(あった)食堂さざなみと恐竜像。ここで何回かうどんを食べたけれど、もう復活しないのかな?
叶山鉱山白水隧道坑口横にある白水の滝。この日は水量が少なめだった。
叶山鉱山白水隧道坑口横にあるau神流町神ケ原東局。おかげでauはバリ3、ドコモは圏外。
あとがき
2021年の舞鶴橋に続いて17年かけた調査レポートを完成できて何より。
叶山隧道ループ完成から(およそ)40周年を記念する記事になった。かな?